「十年ぶりに故郷へ戻った主人公を書いて」とだけAIに頼んだとします。返ってきた文章には雨が降り、主人公には亡くなった母がいて、最後には「複雑な気持ちだった」と心情まで説明されている。読みやすいけれど、どれも自分が決めたことではない。
こんなとき、もっと長い指示を書いて本文を作り直させる前に、いったん本文を頼むのをやめてみます。AIに探してもらうのは文章ではなく、自分がまだ決めていないことです。
描写に詰まったのか、人物の選択が決まっていないのか
故郷の駅をどう描くか考えていたはずなのに、実際には「主人公は戻りたくないのに、なぜ列車を降りるのか」が決まっていない。そういう状態で本文を頼むと、空いている理由までAIの案で埋まりやすくなります。
AIを開く前に、四行だけメモします。
- いま書いている場面
- ここで人物が選ぶこと
- 読者にまだ知らせないこと
- 自分でも決められていないこと
長い設定集を整える必要はありません。たとえば「故郷の駅に着く/列車を降りるか決める/火事の真相はまだ隠す/なぜ帰ってきたのか未決」と書ければ、どこを相談したいのかが見えてきます。
すぐに書かせず、質問だけを頼む
本文を作る前に、決めていない部分を質問してもらいます。
この場面の本文はまだ書かないでください。主人公が列車を降りるかどうかを決めたいので、人物の目的と、読者へまだ隠す情報について、まず一つ質問してください。私が答えたら、次の質問へ進んでください。答えは推測しないでください。
返ってきた質問の全部に答える必要はありません。「主人公は誰に会いたいのか」には答えられても、「故郷を離れた本当の理由」は今は決めたくないかもしれません。その場合は未決のままでよい、と伝えます。
もし「降りたくないのに、なぜ列車を降りるのか」という質問で手が止まったなら、詰まっていたのは駅の描写ではなく、人物の行動理由だったと分かります。ここまで分かれば、AIに本文を書いてもらわなくても、自分で次の一文へ進めることがあります。
三案ほしいときは、違いを先に決める
単に「三案ください」と頼むと、言葉だけ違う似た案が並ぶことがあります。何を変えて比べるのかを指定します。
主人公が列車を降りる理由を三方向で比べてください。Aは自分の意思で過去へ近づく、Bは誰かに促される、Cは降りないつもりだったのに予定外の物を見つける。各案について、主人公の選択と、次の場面へ残る問題だけを示してください。本文はまだ書かないでください。
ここで選ぶ基準は、いちばん派手かどうかではありません。主人公が自分で帰った意味を残したいなら、誰かから連絡が来るBは話を動かしやすくても採用しない。火事の真相をまだ隠したいなら、それを早く明かす案も外す。捨てる理由が言葉になると、作品で守りたいものが見えます。
本文は小さく試し、元の原稿と並べる
方向が決まってから文章の試案が欲しい場合も、一章を丸ごと頼むより、場面の入口や会話の切り返しなど、比べられる長さに区切ります。
たとえば「二百字程度」「主人公の一人称」「感情を直接名付けない」「駅の匂いをきっかけにする」「火事の真相は明かさない」と条件を置きます。返ってきた文章は、次の点だけを元の原稿と見比べます。
- 主人公が知るはずのないことを語っていないか
- 人物の目的と行動がつながっているか
- 既存の時系列や設定を勝手に変えていないか
- 語彙や文のリズムが、その作品から浮いていないか
気に入った一文があっても、場面全体の目的に合わなければ残さない。この判断までAIへ預ける必要はありません。
逆に、すでに場面の目的と人物の行動が決まっていて、仮の表現を何本か見たいときには自動生成が役立ちます。文章の前で止まっているのか、判断の前で止まっているのかによって、使い方を変えます。
採用した内容を、会話に置き去りにしない
長い会話には、採用した案、不採用の案、途中の誤解が一緒に残ります。会話の最後にきれいな要約を作っても、それだけで作品の現在の設定になるわけではありません。
残すと決めた文章は原稿へ。人物の過去や火事の時系列など、これからも参照する事実は参考資料へ。決めていないものは未決事項へ移します。次に作品を開いたとき、AIの会話を最初から読み直さなくても、何を採用したのか分かる状態にします。
未公開原稿を入力する前には、利用するサービスが入力内容を保存するか、学習へ利用するかを、そのサービスの規約とプライバシー説明で確認してください。他人から預かった原稿や、入力する許可を得ていない文章は、そのまま送らないようにします。
対話から始める方法が向かないとき
すでに内容が決まっていて、完成に近い文章を一度に大量生成することだけが目的なら、問いを重ねる方法は遠回りです。また、過去の会話を無条件にすべて参照してほしい、作品中の矛盾を自動で漏れなく直してほしい、という期待にも合いません。
今日の成果を「AIが何字書いたか」で測る必要はありません。自分が決めていなかったことに気づき、次の一段落を書けそうなら、いったん相談を閉じて原稿へ戻れます。